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ご来院前に、当院からの『お知らせ』をご確認下さい。
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「血圧の薬を飲み始めると、一生飲み続けなければならないんでしょ(だからまだ飲みたくない)」
外来で高血圧のご相談を受けると、10人にお1人ぐらいはこのようなことをおっしゃいます。”一度飲み始めたらやめられなくなる薬”、これでは覚せい剤による薬物依存のようなものを連想してしまいます。
正確には、血圧の薬(=降圧薬)は、バイ菌をやっつける抗生物質や熱を下げる解熱薬とは違って、症状が治まれば飲まなくてもよくなる薬ではない、ということです。
高血圧はその多くが血管が硬くなること(動脈硬化)により起こります。でもこの動脈硬化をすっかり元通りにする薬は今のところないのです。現在の降圧薬は、血管を拡げたり、心臓の収縮力を弱めたりすることで血管にかかる圧力(=血圧)を下げています。この効果は薬をやめるとなくなってしまうので、血圧が再び高くなってしまうのです。
「一度飲み始めたらやめられなくなる」ではなく、「やめてしまったら効果がなくなる」なので、飲み始めるのを先延ばしにするメリットはありません。「薬物依存」のような怖いイメージを持たれて冒頭のような訴えをされる患者さんに、なんとか短時間で降圧薬についてご理解いただけないかということで、数年前から「降圧薬は白髪染めのようなものです」とご説明していました。
「白髪染めは、一度始めたらやり続けないとまた白髪に戻ってしまいます。降圧薬は白髪染めと同じで、続けることに意義があります。白髪の相談に来られたのに、一生続けるのはイヤだからと白髪をそのままにして染めるのを先延ばしにしますか?」このように言っているのですが、2人に1人ぐらいは「あ~」とご理解頂けるものの、残りの方は「白髪染めって結構めんどくさいのよね」などと話がそれて、余計に混乱することもあります。
こうして「白髪染めで説明作戦」でも苦戦していたところ、ある講演会で、偉い先生のお話をお聞きしました。その先生は、高血圧と同様に慢性疾患に対する長期治療の必要性を説明する際、「メガネをかけるようなもの」と説明している、ということでした。
メガネをかけても、もともとの視力そのものが回復するわけではない。でもメガネをかければよく見え、外してしまえば見えなくなる。かけ続けるのがイヤだからと、メガネをかけずに見えにくい生活を続けますか?というものです。なるほど、「白髪染め」よりこっちのほうがすっきりしている気がします。
いずれにしても、一定の血圧値を超えたら、降圧剤の服薬を先延ばしにするメリットはないでしょう。つまらないことですが、患者さんの利益のためにメガネなのか白髪染めなのか、あれこれ考えながら診察を続けています。