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ご来院前に、当院からの『お知らせ』をご確認下さい。
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「家で測った血圧は 110/60 でしたが、今は 120/70 もあるのですか?どうして急に上がったんだろう?」
私が測った血圧値を告げると、驚かれる患者さんがいます。「血圧が10(mmHg)も上がった」とおっしゃるのです。はたしてこの 10 mmHg の差にはどんな意味があるのでしょうか?
そもそも血圧を正確に測定するには、血管の中に圧力を測る特殊な管を直接針で刺して入れなければなりません(直接法)。手術や集中治療を行うため、正確な血圧値をリアルタイムで知りたいときなどは、実際にこの管を入れて血圧を測定することが多いです。大学病院で働いていたころは、私もそのように測定された血圧値をモニターで観察する機会が度々ありました。そこでは血圧値が心臓の1心拍毎に変化していることを見てとれます。
そう、1心拍毎に。心臓は、歯車が回転することで流れを作る機械のポンプとは違い、拍動することで(弁の働きも借りて)血液を流す圧力を生み出します。機械とは違いますので、1心拍毎に力のばらつきがあり、モニターを見ていると落ち着いている方でも 5 mmHg ぐらいの変動は普通にあります。そしてたとえば、ひとたび少し大きな物音がして患者さんが驚いたり、軽く咳き込んだりしただけでも 10 mmHg ぐらいの幅で上がったり下がったりすることもしょっちゅうなのです。もちろん、ここに血圧を測定する装置そのものの誤差も加わります。ですから、仮に「今、この瞬間の血圧値は?」と聞かれても、集中治療室にいるような患者さんでさえ、せいぜい5~10 mmHg 程度の幅の中でしか答えられない、というのが本当のところだと私は思います。
一般の方になじみのある、腕や手首に帯を巻き付けて血圧を測る方法は、この直接法の簡便な代替法(間接法)です。この間接法ではさらに測定値の幅は大きくなります。本当は血管の中で測らなければならない圧力を、体の外から測っているのですから、当たり前ですよね。
細かいことを言えば、間接法では帯が腕や手首を締め付ける際に一度血管や周囲の組織を押しつぶします。そこが復元するときの圧力から血圧値を推定しているので、短時間に繰り返し測定すると血管や組織の状態が一時的に変化して測定値に影響することも考えられます。ここに、たとえば「昨日飲みすぎたから、今日の血圧は高いかな?」と身構えたりとか、風邪で頭痛がするだけなのに「もしかして怖い病気かも!?」と心配したりとか、人間の心理的な要素が加わることで血圧値はさらに幅を持って変動します。
誤解のないように申しあげますと、私は血圧を測定することに意味がないと言っているのではありません。お伝えしたいのは、①血圧値は常に変動していて、②正確に測定することが難しく、③生理的、心理的な影響を容易にかつ強く受けることがある、ということなのです。
ですから血圧値を評価するときには、5~10 mmHg 程度の違いよりも、ある程度蓄積されたそのひと個人の平均的な数値をもとに、心理的な影響等も加味しながら、どのように、どの程度変動しているのかを考えることが重要なのだと思っています。
ふうっ。
それにしても・・・。
ちょっと長すぎる話ですね。冒頭のような一言を言っただけで、こんなに長い話を聞かされる患者さんは気の毒です。というより、これで患者さんの血圧が上がらないともかぎりません。有難迷惑、社会的に許されないのでは?と考え直し、ブログに書きました。しばらく診察室では、この辺の話は封印します(ほんとか)。